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(其れこそ蟻か何かの様に) »

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回収作業

 

E
n premier amour

《 ズ、ズズ、 地面に軌跡を残すスコップを潔く墓前へと突き立て雨水を含み柔らかくなった其れを緩やかに掘り進める(嘗て墓穴を掘る際に唇に乗せた薄暗い鎮魂歌は取り払い代わりに鮮やかな円舞曲を灯し、嘗て暗澹たる気持でスコップの上下を見詰めた瞳は再会を羨望する様に煌めかせて)――そうして暫くして其の先端が木製の固い表面へとぶつかりガツ、と音を響かせれば其の場に屈み込み、丁寧に掌で土を払い棺桶の存在と其れが10年前の彼の時と同様の姿で在るかを視線を滑らせて確認すれば、早々と棺桶の端にスコップを割り込ませ体重をぐ、と掛けた。――徐々に起き上がり土から這い出る其れに女のしなやかな体躯を連想して薄く嗤うも、持参して来たトランクからバールを取り出して其れを棺 桶の蓋に差し込み、引き剥がす――ギギ、ギィ、ギ、――錆びた釘が棺桶から引き抜かれる不快な音。其れすらも気に留めずに開かれた棺桶の中を覗き、"彼女"に手を伸ばして。微笑う。 》


エスコートしてあげるよ、リデル。
《 "彼女"――"黒表紙の本"はトランクへと投げられて。 》


Amour déçu
《 艶やかな舞台小屋の裏口で独り――幾つか花が散り無惨な風体に成り果てた花束を見遣って小さく呻くと、赤く腫れた頬がジワリと痛んだ気がして。空いた左の掌で其れを撫でてやれば手袋のシルクの感触、薬指に存在する冷たさが優しく慰めて居る様に感じられた。 》

――"何の感情もございません"何て良く云えた物だなあ帽子屋――否否全く予想外だが頬を打たれて項垂れる程度には未だ未だ愛して居たらしい。まあ、本当に"結婚は人生の墓場"と想って居たのならば其の終焉はとっくの昔に壊して居るだろうから俺も大概本気だったと云う事かな――3日間の恋情と3日後の別離の恋物語をメルシージュリエット。君が客から愛される女優で在る為には天涯孤独を演じなければならないし、俺が君から愛される鏡で在る為には天涯孤独を同様に演じなければならない。"何故貴方は""何故君は"の遣り取りでさえも余りにも不毛だ。 なあそうだろう、希代の勘違い男ロミオ君!


……、
此の指輪、金貨に換えられると好いが。
《 花片達へと埋めた顔を緩やかに上げれば、
不味い、と吐き捨てた其れは置き土産。
――"鉛色の指輪"はトランクへと忍ばせて。 》


Amour non partagé
《 くるり。 独りでワルツを踊るかの様に一度だけ廻って見渡した帽子屋に変化を見出だすとしたのなら、家具に積もる埃が少し増えた程度だろうか――何ヶ月振りかに来たと云うのに、何一つも変わっていやしない。此処に入る事を赦された小さな客、――少女を惑わし迷わせ少しでも長く留める為のイカレた配色の陳列や迷路を思わせる棚の並びは勿論、暇潰しの心算でワルツを踊る事を強要した向かい合わせのマネキン達でさえも一ミリも動かずにいる。店が其の姿に囚われている様に、時が止まっている様に――まあ其れで好いのだろう。少なくとも"此処"は、それで好い。少しだけ嘲笑を含んだ呟きを零した後近くの机に片手を置き、空いた方の手で建て付けの悪い引き出しを開ける。そうしてばらばらと様々な物が散らばる其処から鋏や糸、レースや布地等を拾い上げ、足元のトランクへと適当に落として行く。本当ならば総てを持ち去りたいのだけれど流石に其れでは重荷にすら成り得る。恐らく彼方でも布等は手に入れる事は出来るだろう、店が無くても森で獣でも狩れば好いのだから――と、不意に近くでチリリ、と鈴の音が響いた気がして手を止める。引き出しから鈴が落ちた可能性も考えたが生憎帽子に鈴を飾る趣味はない。 》


おや公爵夫人。
また来たのかい本当に君は悪い女だな――嗚呼噛みつくなよ本当の事だろ、事実今も恁うして俺を惑わせようとして居る。頬を擦り寄せて甘えた声を出して俺を愛して居るかの様な振りをして居ても、君は最後には結局"此処"を選ぶ――そうだろう、猫はそう云ういきものだ。紅茶が飲めれば注ぐ相手が誰で在れども構わない。そう云ういきものだ、君は。


そして君はトランクに収まらないいきものでも ある。
《 だから此だけ頂いておこう、と黒猫の首から解いた其れ。
――"鈴の付いた深紅のリボン"はトランクへと滑り落として。 》






*      *      *

"来客制限"として作られた其の小さな扉を自身が通れる訳も無い為に裏口の扉から店を出ると、表扉のドアノブに掛けられた「少女以外にはCLOSE」と云う巫山戯た看板の"少女以外には"の部分を赤色の絵具で塗り潰して完全なる"閉店時間"を告げる――が、少女専用の物依りも小さな扉の鍵は開けておこうか。可愛く哀れな黒猫の為にでも。
「――さァて、さてさて。
未だ未だ時間が在る様で無い様で」
其の時間を如何に使うべきか迷い乍ら踵を返す途中、不意に"開けた視界"が恋しくなり、片眼鏡を胸に仕舞い帽子を胸に当て見上げた夜空。



「嗚呼、」


思わず吐き捨てた其れは幸運にも誰にも届かずに消え失せ、
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