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« 赫紐ト狐 | 独白 »

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最終的に言うならば、

おにいさま。

―少女の滑らかな白い肌に指先だけで触れて、愛おしむ様に背骨をするりと辿った所で少女は堪えかねた様に訴える。恥ずかしいから止めて頂戴、おにいさま、と。
僕はと云えば其れが僕には(或いは、僕にだけ)赦された行為なのだと思い上がりも甚だしい錯覚でも抱いて居たらしく、彼女の柔らかい拒絶に僕の心臓は傷付き野兎の様に跳ね、気分は甘い其れからすっかり申し訳の無い物に成り代わり、酷く萎縮してしまった。(―嗚呼。そう云えばそうだったのだ。)朦朧とした頭で思い出す限りでは、そう云えばこんな触れ方が赦される様な―――恋人だとかの―――関係では無かったのだ、僕等は。其れなのに僕と来たら未だ、否、絶対に踏み入れてはいけない領域に、少女のうつくしさに酔いしれて居たからとは云え踏み入れてしまったが故に、彼女に拒絶され続けてしまうのだ。何て愚かなフェアリーテイル。ロマンスさえも起こり得ない。だけれど其れなら―彼女にとって僕は何だったと云うのだ。如何して勘違いしてしまいそうな程の距離に、僕が居て、彼女に―――何て。(嗚呼。そう云えばそうだったのだ。)

おにい、さま。

―――彼女に"御兄様"何て呼ばれた事は無かったのだ、僕は。
(此は、夢だ。)
そう気付いてしまえば願望が入り混じる世界では自分の愚かさが浮き彫りになるだけで、心地良くも何でも無いし、此じゃあ唯の悪夢である。何て皮肉な明晰夢。夢で在る事を自覚して居る上で夢を視るだ何て見苦しい足掻きに過ぎないと云うのに。そもそも“きょうだい”として過ごす日常を夢視ると云う矛盾さえが傲慢だと云うのに。僕が決して“其れ”が赦されて居ない立場だったとは云えども単なる口約束の契約なのだから、僕が兄なのだと一言云えば他の誰が赦さ無くても彼女はきっと許容してくれただろうに。だけれど其れを真摯に望まずに居たのは誰でも無い僕だ。そして其れは恁うして触れる事を、優しく囁く事を、昔からずっと続けた物を、今みたいに拒絶される事で壊されるのを畏れたからでは無いのか。
(…現実では最後まで望め無かった癖に、夢では浅ましく望んだりして。)
そんな僕を頬を抓る事で戒めようとしたが此は夢なのだからきっと痛くは在るまい、と気付いて苦笑しかけた僕に、夢の彼女は何事も無かったかの様にねえ、と、其のか細い声で語りかけて来る。とても楽しそうに。少しだけ擽ったそうに。―嗚呼否、何事も無かったの様に、では無くて―夢の場面が急展開しただけなのだろう。何時の間にか先程迄の彼女の寝室はすっかり消え失せて其処は少しだけ懐かしい薔薇園になって居るし、彼女は真新しいドレスに身を包んで繊細な構造のオルゴールに縛り付けられたバレリーナの様にくるりと廻って視せる。夢では鼻孔に香りさえも届かないと云うのに彼女の香水の甘い香りを酷く鮮明に思い出せる気がして、思わず瞳を閉じれば直ぐ傍で彼女の声が響いた。

「ねえほら、しっかりみてったら。
 ちゃんと似合うかしら。変じゃないかしら。」

(嗚呼。)

―――ええ、似合うと思いますよ。
自分の意志に沿わず無意識に出た言葉に愕いて思わず閉じていた瞳を見開いた。目前に嬉しそうな彼女の表情、何処か切なくて、懐かしくて懐かしくて懐かしく、て。

(此は、夢じゃない。)

「よかった。 此のドレス、真っ先にあのひとに視せたくて。
 でも似合うわないようだったらとても恥ずかしいでしょう、
 だから、―――ああ。でも此だとあのひと二番目だわ、大変!
 ねえあなたに視せたこと、ふたりだけの秘密、よ。絶対なんだから―――」

(思い出じゃないか。唯の。)
其れも"あのひと"の―――其の言葉に酷く狼狽して夢の中なのに目眩がした。如何して此は僕の夢なのに。如何でも好い部分は都合良く改変する癖、一番都合の悪い物は消してくれやしないのか。
(…嗚呼そうか。結局の所。)
如何したって、如何しても、都合良く改変しても。
夢は自分の現実を適量だけ搔い摘んで適当に掻き混ぜて創り出すのだから、仮想的とは云えど矢張り現実で、何度視たって、何度遣り直したって、同じ所に行き着くのだろう。だって僕は其れしか識らない。其れをした後の結果は如何しても想像からは抜け出せない。ならば何処依りも望みが叶わないのが"夢"なのか。
(喪しかしたら、或いは、の選択の遣り直しすら赦されない何て。)
けれど其れがきっと正しいのだと云う事は僕も判ってる。夢の中で兎を追った彼の少女の様に其れを笑い話に出来る程聡くは無いが理不尽だと怒鳴る程僕は幼くないのだ。少なくとも喪しかしたらの希望を与えられて、目覚めた途端奪われる撚りかは優しいシステムじゃあないか、何を憤慨する必要が在る。何を名残惜しむ必要が在る。

だから、こんな夢さっさと醒ましてしまえば好いのだ。
(其れこそ、何時もみたいにね。)

「ええ。此はふたりだけの約束。
 もしも嘘を吐いて破ったり何てしたら首を刈る。
 ―――ですよね、アリス―――御嬢様。」

自らの手で緩りと鎌を首筋に押し当てて思い切り裂く様に、確認する様に、夢の終演で何時も云う御決まりの台詞を唱える。そうすれば彼女も何時も通り小さく唇を開いて、その通りよ、とだけ呟いた。其れだけなのに何故だか如何しようも無く辛くて苦しくて悲しくて胸が押し潰される様な気分で、嗚呼矢張り此の夢二度と視たくない、と、此また御決まりの事を考えた、のだけれど。

相変わらず胸は押し潰された侭で。








―――其れが物理的な物だと気付くのは目覚めて直ぐで在る。

「Bonjour.おにいさま。」
「ぼんじゅ―――いや重い、凄く重い。
 御願い降りて、ルクレツィア!」

少女に対して"重い"と云うのは何処と無く禁忌に思えたが、はしたなくも僕の体を跨ぐ訳でも無く、こんな時に限って一端のレディか何かの様に行儀良く胸の辺りにちょこん、と正座する少女は体重的には軽いとは云え、胸に重点的に体重を掛けられれば流石に息苦しい。何時から此の体制なのかは監視カメラの無い僕の部屋では理解り得ないが好く此で今迄熟睡出来て居たものだ、何処ぞの眠り鼠宛らの睡眠欲の強靱さに我乍らに感心する。(とは云え感心する前に軽く生命の危機を感じるが、)そんな僕の訴えにルクレツィアは意外にも素直に頷くと、ずるずると僕の体躯、そしてベッドから滑り落ち、少しだけ折れたスカートの端を整える。…嗚呼、先程のは褒め難いものだったが、こうして視れば彼女。割と振る舞いにレディらしさが滲み出て来たのだろうか。初めて彼女を預かる羽目になってしまった時には其の男性に対する警戒心の無さに酷く頭を抱えたのだけれど―――何て云えば彼女はまた怒るだろうから云わないけど。
僕は僕で少し緩む頬を整えるとベットから脚を放り出して彼女に向き合うと、何だか其の(彼女が寝ている状態で在る僕の部屋に居ると云う)光景の奇妙、と云うか新鮮さにそう云えば彼女が(起こし方は兎も角として)珍しくも起こしに来てくれたと云う事実に気付いた。素直に愕いたので頭を撫でると彼女は呆れた様に兎みたいに赫い瞳を背けて、だってもう紅茶の時間よおにいさま、何て軽く先程以上の驚愕の事実を告げる。僕はブレックファストを食べ損ねて、其の侭ティータイム迄飛んで来たらしい。

「さすがに此処までおきないのはめずらしいから心配したの。
 でもよかったわ、おにいさまの目がちゃあんとさめて。」
「ちゃんと醒めて?
 …珍しいのは確かにそうだけれど…随分大袈裟な云い方。
 真逆とは思うけれど僕が死んだとでも思ったんじゃないだろうね」
「ん。 死んでいるのならまだマシなほうよ。
 死んでいるのならキスで目がさめるけれど、
 眠っているのなら13番目の魔女を罰さないと、いけないもの。
 それって、とってもとっても、―――面倒、だわ。」

でしょうおにいさま。愛らしい微笑に対し不穏なのだか無邪気なのだか判らない言葉の意味を捉え兼ねて畏怖しつつも首を傾げる。キスに13番目の魔女、まるで御伽話みたいだ、と考えれば潔く其れが何の御話なのかが思い当たる。"Schneewittchenしらゆきひめ"と、"La Belle au bois dormantいばらひめ"、毒林檎の姫と、糸車の針の姫の話?けれど其の話題が此の場に持ち込まれた意図迄は計りかねて、終に、また何かの影響を受けたのかいルクレツィアは―――そう、疑問系の侭に確認する様に小さく呟いた。―だけだったのだけれどルクレツィアは微笑をぱっ、と消し去ってたちまち頬を膨らませ少しだけ泣きそうな表情をする。(嗚呼、やばい。)また御機嫌でも損ねる事でも云ったのだろうか。焦る心境に対して余りに緩りとした対処法として、膨らんだ頬を撫でようとした手は彼女に避けられる事によって遣り場を無くした。何なんだ一体。僕の困惑等御構い無しにルクレツィアはくるりと丁度90度ぴったりに方向を変えると、兎のスリッパでぺたぺたと音を立てて軋む扉迄歩いてから僕にでは無くて扉に向かって内緒話でもするみたいに云う。寝るときによんでくれたでしょう。だれでもないおにいさまが!(嗚呼、ほんと、やばい。)何て呑気に思った頃には時は既にもう遅いらしい。

「もう。
 きっと自分の夢ばかりみているから、ほかの夢のあるおはなしをわすれてしまうのだわ。
 夢ばかりみているから、現実をわすれてしまうのだ、わ」
「え、ああ、―――ルクレツィ」
「―――夢みるアリスを夢みるなんてほんとにばかみたい。まるでコーカスレースよ。
 でも、ねえ、今ははやくティータイムの準備をして。
 そうしないと首しかない猫だって、自慢のシルクハットぐらいは刈られるのよ!」

半ば怒鳴る様に吐かれた言葉と共に閉じられた扉に呆然とするのも束の間、段々と冷静になった脳が僕に溜息を吐かせた。彼女と、―仮とは云え家族と過ごした時間を忘れると云うのはあんまりな事だ。僕だってそんな事されたら"時間を無駄にした"何て憤慨する。けれど普段は小さな唇を尖らせて拗ねるだけの彼女にしては、如何して今日と云う日はあんなにも御冠なのか何て―――(そう云えば彼の少女は決して呼ばなかったけれど、ルクレツィアは僕を"御兄様"と呼んでくれるのだった。)―――おにいさま。少女のか細い声。浮気相手の名を寝言で呟く何てドラマ位でしか視た事の無い最悪の状況を想定すれば酷く頭痛がする様な気がしたが、そんな僕を咎める様に壁に隙間無く打ち付けられた時計の針達が皆揃って鳴り響いて僕を急かす。嗚呼もう。彼女にしても君等にしても、如何してそんなにも僕を急かすのか。もう少し瞳を閉じて余韻に浸ったりして、彼女の事思い出したりし乍ら悲しい気分で紅茶を濁して、淡い溜息の一ツでも吐いてみたいのに。そんな冗談めいた事を考え乍ら僕は早速小さなレディの御機嫌取りの計画を立て始めた。(嗚。そう云えばレディが男の部屋に入るものじゃないと云い忘れたけれど、まあ好いか。)何だかんだ云おうとも、喪しかしたら何て夢を、ルクレツィア迄で見たら流石にノイローゼになってしまうだろうから間に合う期間で対処しないとね。
其処でふと、無意識に彼女と同視して居る事を気付いて此も怒られる要素なのだろうなあ何て思って、そっと小さく詫びた。









其れでも矢張り詫びる相手は勿論アリスですけれども。

***

夫人と王に子が生まれ。女王怒って夫人を刎ねた。
女王、其の子を豚と罵り。王が憐れみ情けを掛けた。
そうして其の子はメアリ・アン。甲斐甲斐しくも働いた。
だけれど其の子はアリスの為に。兎の時計に悪さして。
結局御前は夫人の猫と。序でに罪人帽子屋レッテル。
其れで。結局。一体。彼は。何の役割だったのか。

(腹違いの兄妹
 にばんめの兄Aristideと、さんばんめの妹Aliceのおはなし。

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