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« (其れこそ蟻か何かの様に) | 赫紐ト狐 »

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独り、善がる

 

「僕はね、恁うして白雪に足跡を付ける度にほんの少しの恍惚と満足を得るんだよ。
 だってほら。綺麗で尊い物を蹂躙している気になる。其れを独占した気にもね。」
「そりゃあきみ、単なる変態趣味だなあ。」

其れ余り外では云わないでくれよ、冒険者様々の印象が雪崩れちまうから―――小さな嘲笑の続け様に浴びせられた誤魔化しも無い嫌味を含んだ其れに憤慨を覚えて少年を鋭く睨むが、幾ら視線を注いでも瞳は些細とも合わず、結局唯々空中を彷徨うだけで終わった。僕に視線すら遣らない位だから別段本気で止める気は無いのだろうなあ。僕としては其の事実がまた酷く寂しいのだけれど、口に出すのは癪な其れは雪を踏み躙る事で打ち消した。泥が入り混じり薄汚れた雪は居直る犯行者の如く惨めだ。そんな白雪を視れば視る程(僕みたいだから、此はもう僕の物)何て考えが湧いては消えて、仄暗い感情へと沈んで行った。其れが酷く心地良くて、僕は無意識に小さく語る。(―――なあ君は。)少年は振り向かない。白雪は耳を傾けない。最早誰に対してかも判らない語らいは尚続く。(誰もが愛する綺麗で尊い物からすっかり誰もが愛さない産物に成り果てたんだ、少なくとも以前の美しさを識る僕以外は愛せないんだ―――)嗚呼。そうだったら何て素敵だろうと。子供染みた恍惚感に心が打ち震え、見窄らしい独占欲に襲われる。素敵な理想論。叶わない夢想論。

少年が漸く僕を視て微笑う。

「きみはそう云う残酷なやりかたでしか得られないんだなあ。」

嗚呼哀しいやつ。綺麗な物を穢して僕だけしか愛せない何て嘯いて。本当はそうとも限らないのに手に入れたと誇らしげに騙るのだなあ。そう云えば何時だってそうだった。何時だってきみは美しい物を好きになるのだった。きみにとって美しい物が他の誰かにとってもそうで在るのは当然の事で、其れが他の誰かの物に成るのも必然の事なのに。例え其れを白雪を穢したがる子供の様に穢した所で、其れにとっては泥等払えば好いだけの話なのに。躍起になって踏んだ所で何一つ得られない無意味な行動。
そりゃあ君、単なる変態趣味だなあ。

僕は漸く少年を視て嘲笑う。








「独り善がりでは何も得られやしないよ、ねえ君。」


でもね欲しくて堪らないんだ、なあきみ。







100年越しの独り善がりは泡にもせずに湖に沈めた。
 

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