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« 独り、善がる | 最終的に言うならば、 »

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赫紐ト狐

 

取り敢えず此は聞き流して好い物だと云う事を此処に明記しておいた後の御話。
( 其の言葉は如何受け取れども聞いて欲しいと云う主張で或る事を其の少年は識って居るものかは識った事では無いが、唯暫く腕の紐を指先で玩ぶ様に手繰り寄せては放しを繰り返しては繰り返した後譫言の様に其れを切り出すのだから仕様が無くも耳を傾けるしか無いと云う事だけは事実で或る。されど、心迄は傾けて居る訳では無いと云う真実も彼の其れの隣にでも明記しよう。 )
僕はねセンセ。
赫い糸なンざ信じちゃア居ないけれど矢張り縁ッて奴は―――恁う云う色をしていて紐のような形してるんじゃア無いかッて―――思うんだ。だけれど其れはちゃンと巻き付いてる訳じゃア無くってね、結び目があるんだ。だからね。恁うして髪を結い直すみたいに一々結び直さなきゃあ、何時か。何時か。解けて消えちまうんじゃア無いかッてさ――ふふ。ごめんね、浪漫の一欠片も無い学者のセンセには難易度の高い御話だッたね。けれど仮定するのは得意芸だろう、仮定して仮定するならば、嗚呼けれども結い過ぎてしまえば互いが絡み合って孰れ本物とやらが判らなくなるのだろうな、其れなら切るしか無いんだろう、切るしか無いんだろうな。僕等は其れこそ余りにも呆気無く鋏で選別して切り捨てて往って、其れで残った物が親友とか恋人とかになるんだろう。薄情な関係程切られるのが早いこと早いこと。けれども其れ程僕等は冷徹で或れるのかな?そもそも結いも切りもしなければ其れはふと解けてしまうけれど、解けてしまいそうな程の頃合い迄離れて居た人間の縁は結うのも切るのも億劫じゃあないかい...?さて此処でもう一度仮定。縁は其処迄脆い物では無いと、そう簡単に解ける物じゃあ無い何て考えてみる。ははは、だから何だってのさ。じゃあ僕等が切りもしなければ其れはずっと継続するのかな、何年も逢って居ない彼を僕は友人と宣えるのかな、惰性的過ぎやしないか。―ああ、そうだよセンセ。
でも其れ程僕等は冷徹で或る事は不可能、其れに、余りにも弱小だ。
( だから、そんな惰性にすら縋るしか無いのさ。
 そう付け足して少年は空になったティーカップの底を覗くと小さく微笑った。 )

さァて如何だいセンセ。
僕の御話は愉しめたかい。紅茶一杯分の値段に釣り迄付きそうな位の物だけれど。―ややァ御気に召さ無いなら仕方無い。僕はセンセの其の眉間の皺が大好きだから微笑って欲しいだ何て露ほど思わないけれど僕が紅茶を御馳走になれるかが関わるならば話は大いに別だ。ほら少しばかし手を御貸しよ、指何て削ぎやしないから―――はは!御揃いかだ何て随分気味の悪い事を云う、真逆の真ッ逆さまだ!僕の紐は恁うして両腕に確りに結ばれて居ると云う不毛振り且つ自己愛を発揮して居るけれどセンセは別だろう。其の先に結われる誰かが居る。堅物のセンセが其処迄泥酔してしまう程の誰かが。―――ワイン何て一本も開けて居ないのにね―――何、ほんの景気付け、御呪いや御守りだと思って呉れても構わないよセンセ。
( 少年は私の腕に巻くが為に紐を引き抜いた狐面を如何したものかを少しばかりか思案したかと思えば、懐の袋の中の金貨を机に一気に撒き散らし空に成った其れに突っ込むと其の侭踵を返す物だから私は慌てて彼を呼び止めた。彼の全財産で在ろう金貨は机に置き去りの侭で或る。 )
好かったら其れも貰っておいてセンセ。
困るッたッて、僕の方が困るんだッて!だッて狐面が入らなくなッちまうだろう、墜としたら適わないし、かと云って此を手に持って歩いてみなさいな、狐の生首を持ってるだ何て狐に憾まれちゃあ夢見が悪くて仕方が無いや。僕を助けるとでも思って受け取って御覧、其れじゃあ僕はもう帰らせて頂くよ、君と違って一人の為に生きられやしないんだ―――うん?嗚呼、そうだね。




「縁が在ったら、また。」
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